某一部上場メーカーに勤務している友人から聞いた話。
彼の会社には、役職者以上は肘掛け椅子に座るべし、
という不文律があるらしい。

彼が入社した頃は、「俺もいよいよ肘掛け椅子に座れる!」
などと喜んでいた先輩がいたそうだ。
時は流れ、肘掛け椅子に座ることを無邪気に喜ぶ社員は減った。
しかし、未だにその不文律が生きているというから驚きだ。

先だっても、部署の移転に伴う引っ越しで、この肘掛け椅子に
まつわるちょっとした騒ぎが起こったらしい。
事の発端は、派遣社員の女性が座る席に、その肘掛け椅子が
セットされていたこと。付近に予備の椅子はなかった。

「あのぉ、私この椅子に座って良いんでしょうか?」
当惑気味に周囲に尋ねる彼女。ほとんどの社員が「いいんじゃない」
と答える中、人事の担当課長だけが難色を示したらしい。
「一応、決まりだから・・・」
結局、彼女には肘掛けのない椅子があてがわれた。

誰もが、さしたる意味を感じなくなっているこの不文律は、
かくして連綿と受け継がれているのだろう。

ちなみに、過去、当社にも同様の慣習があった。
部長以上の椅子には肘掛けが付いていたらしい。
しかし、かなり恰幅のいい部長が誕生して以来、
誰言うと無くその慣習もなくなったとのこと。

肘掛けが邪魔になる役職者もいるだろう。
そんなものである。