15年ほど前、私が営業を始めた頃はITネットワークの環境はありませんでした。
営業マン同士の情報交換にしても上司への報告にしても、
やりとりされる情報の大半は口頭によるものが中心。

それゆえ、営業マネージャーが
個々の営業マンの営業プロセスを把握しようとするならば、
部下とのコミュニケーションが濃密である必要がありました。

今日は何件訪問したのか?、見込み客はできたのか?、
A社のクロージングはどうなったのか?、B社のクレームは解決できたのか?、
それで今月の予算は達成できそうなのか?等々、
煙たがられるような質問もしなければなりません。

私の上司だった営業所長は日報対話にも熱心でした。営業マンは
その日訪問したすべてのお客様とのコンタクト情報を日報に記入してから帰宅します。
そして、営業所長は誰よりも朝早く出社して、
一人一人の日報に赤ペンでコメントやアドバイスを記入して返却するのです。
当時営業マンは8名いたと記憶していますので、
今から思えば相当骨の折れることだったと思います。

しかし、この日報対話とリアルで濃密なコミュニケーションのお陰で
チームとしての一体感と上司への信頼感は増していきました。

時が経ち、私が営業マネージャーとなった頃には、
ITがコミュニケーションツールとしても浸透していました。
ほとんどすべての情報はネットを介してやりとりされ、
営業日報もSFAを利用してデータとして管理できる環境です。

部下に煙たがられるような質問をしなくても
「SFAにデータを入れておいて」とだけ指示をすれば、
一瞥でチームの状況が把握できるようなデータが手に入ります。

ともすると、面倒なコミュニケーションは避けたい、
というような怠け心が頭をもたげることもありました。
しかし、データを眺めることが営業マネージャーの仕事ではない、
そのことを知らしめてくれた原体験が私にはありました。
日報対話の上司が示してくれたように、私も部下と対話を重ねるよう心がけたのです。

一人一人の個性と心理に配慮しながら対話を重ねていくと、
その営業マンがどうしたいのか、何を考えているのか、どんな気分でいるのか、
というような数値や言葉で表現しにくいモノが徐々に感じられてくるようになります。
そして、その表現しにくいモノ
−営業マンが持っている思想・意志・感情・感覚と言ったスピリチュアルな類のモノ−
こそが営業という仕事の成果に大きく影響しているのではないか、
という考えを持つに至りました。
見えるモノと見えないモノを総合的に把握しなければ
営業マネージャーとしての責任は果たせないというのが、今の私の持論です。

さて、最近では営業プロセスそのものを
「見える化」しようとする取り組みが盛んに行われています。

とかく属人的だと言われている営業マンのノウハウを共有する、
上司が部下の営業マンに対してタイムリーかつ的確なアドバイスを出来るようにする、
はたまた企業の財産である顧客のデータを漏れなく保有する、そのような目的から、
主にITを駆使して営業マンの活動が見えるような仕組みを作ろう、とするものです。
「見える化」で営業活動を標準化して効率を追求していくことは
理にかなったものであり、そのこと自体を否定するものではありません。

しかし、営業という仕事のすべてが見えるモノだと妄信するのは危険だと思うのです。

なんとなれば、
見えるモノしか評価しない・評価されない無味乾燥なマネジメントがはびこることで、
営業マンや営業マネージャーが本来鍛えるべき
「見えないモノを見る力」をみすみす削ぐことになりはしないか、と恐れるためです。

日報対話の上司は今どのようにマネジメントを考えているのか、
久しぶりに話を聞きたいと思っています。
(unison1)