「営業なんか絶対やりたくない!」
社会人になった頃は、本気でそう思っていました。
「営業」という言葉の響きからは、
きついノルマで数字に追われ、上司に怒られお客様に媚びへつらい・・・
理不尽かつ非創造的な日常しかイメージできなかったのです。

「もっと楽しくクリエイティブな仕事がしたい」。
今になって思えば、身の程知らずの青二才そのものでした。
では、想像していた「営業」のイメージが間違っていたかと言えば、
残念ながら大部分は当たっています。

それでも、
曲がりなりにも私が「営業」を続けてこられたのには相応の理由があります。
「営業」は実にクリエイティブな仕事だったからです。

私の営業人生(?)はOA機器の直売営業からスタートしました。
駆け出しの頃は、会社や上司から出てくる目標・指示を忠実に
(は出来ませんでしたが)こなすだけで精一杯。
そして、仕事に慣れ始めた頃には
「言われたことさえやっていればいい」という思考が根付いてきました。
この思考こそ「営業」の仕事を非創造的なものにしてしまう元凶だったのです。

次第に毎日がつまらなくなり、
「もう辞めようかな」と思い悩んでいた頃、ある新商品の勉強会がありました。
それは、建築申請書などの定型書式をスキャナーで読み込んでワープロ画面で編集、
画面イメージのまま印刷が出来るという、当時としては画期的な新商品。
メインターゲットは建築業界でした。

ただ、私のテリトリーには建築関連のお客様は少なく
「自分には関係ない」とばかりに漫然と話を聞いていました。
すると上司が「堤君、これ○○幼稚園にも△△製パンにも絶対売れるよ」
と予想もしなかったことを言ったのです。

「あそこは業者指定の請求書を発行しているでしょう。同じように使えるんじゃない?」。
うなずきはしたものの、私は半信半疑でした。
ところが、アドバイス通りに営業をかけてみると、即決で二件とも受注が出来たのです。
上司の着想に驚くのと同時に、一切頭を使っていなかった自分に気がつきました。

些細なきっかけですが、この出来事を境に私は頭を使うことを意識するようになりました。
日常的なところでは「この商品、あのお客さんに売れるかも」と皮算用を頻繁にします。
ソフト会社の法人営業をしていた頃には
「A社のサービスとうちの商品を組み合わせたら面白いな。チャネルにも魅力的なサービスになるぞ」
などと複合化することによって提案の価値を高めることを覚えました。

アイデアが浮かぶと、すぐお客様にぶつけてみたくなる。当然、当てが外れることもあります。
そんな時は、集めた情報を整理してもう一度考え、またお客様にぶつけてみる。
そうこうするうちにだんだん仕事が楽しくなってくる。
気がついたら「営業」の魅力に取り憑かれていました。
ありったけの想像力を働かせて、お客様にとっての価値を創り出す。
これほどクリエイティブな仕事はなかなかありません。

最近、若手営業マンの方から「仕事がつまらない」という話を頻繁に聞きます。
残念なことに、
「報告するために仕事をしているようなもの」との本音を吐露する方もいらっしゃいます。
顧客管理・営業プロセス管理・日報管理など種々のデータ管理、
お客様に提案するにもパワーポイントで見栄えの良い提案書を作らなければならない・・・
ITが浸透したお陰で貴重なデータは残せるようになりましたが、
現場営業の作業負担は明らかに増えています。

心ある上司の方には是非、
「営業マン自身が考えること」を習慣づける働きかけをしていただきたいものです。

行動量を増やしたり、プロセスを見直したりするだけでは実績を上げ続けることはできません。
「付加価値を描く」クリエイティブな仕事が営業である、
ということに営業マン自身が気づき、夢中になることこそが何よりも重要だと考えるものです。

ところで、なぜタイトルが「チャングムに学ぶ」なのか?
その理由は、「続きを読む」をクリックして下さい。

NHKで「チャングムの誓い」という韓国ドラマが放映されています。
朝鮮王朝の宮廷料理人であるチャングムが、
次々と襲いかかる困難を克服して立身出世を果たすというサクセスストーリー。
なかなか面白いドラマです。

先週の放送で、
料理人の命とも言える味覚を失ってしまった主人公チャングムに対して、
師匠であるハンサングンが
「味覚がなくても、お前には味を描く能力がある」
と諭す場面がありました。味覚がなくとも食材の組み合わせや味、
食べる人の好みや体調を想像して新たな料理を創造することが出来ると言うのです。

料理も営業もお客様に満足してもらうのが仕事です。
料理を営業という仕事にたとえるならば
「味を描く=付加価値を描く」ことなのではなかろうか?
ハンサングンの台詞にインスパイアされ書き留めたよもやま話でした。